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翔 ぶ 魚

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vol.33 真冬の夜の悪夢

Side white

とある真冬の大寒波が都内を襲った日の思い出。

ワタシは中目黒の古いビル内の
知り合いの事務所に一人でいたのだった。
知り合いを含む社員達は皆帰ってしまった後である。
有線やらコンポの所在が分からない。
ノーミュージック。
空調の音ばかりがやたらと耳につく。

ガランとした事務所内でしばらく黙々と作業をしていると
その天井に埋め込まれている空調がぱったり停まった。

ん?

もしや管理人さん
ビル内が無人になったと思って空調切っちゃったのか?
いやいや。こちとらあと数時間は居残り組みなのよ。
デ−タの関係上持ち帰りも出来ない。納期は翌朝だ。
いやーね。管理人室ってどこ?
と、エレベーターに向かうとそこに貼り紙が。。。

○月○日より
節電のため20時以降は空調を切らせていただきます。
なお、これは自動制御により運転されるもので…うんぬんかんぬん。

…自動制御なの?ボロビルなのに?

しかし停まったものはどうしようもない。
ま、いっか。と
とぼとぼデスクに戻って作業を再開したのである。

…あまかったね。
だいたいワタシはいつもあまいね。

ボロビルは気密性がめっさ低いのである。
しかもワタシのデスクは壁一面の窓際であった。
ガラスを通して冷気がひたひたとダイレクトに浸透してくる。
さっきまでのあったか天国が嘘のように
刻一刻と室内温度が下がってゆく。
肌でもろ感じられるのだ。

しばらくすると身体が小刻みに震えだしてきた。
…おいおい。登山小屋かよ。ここは雪山か?

もちろんそんな環境だから
その小さなビルはおそらくその時点で
ワタシ以外人っ子一人いない
無人ビルと化していると思われるわけで。
そこは9階だったのだが
自分の足下の8フロア分すべて暗い無人空間。。。
天井の上2フロアも暗ーい無人空間。。。
静けさが耳に痛い。

イメージがまた走行しだしてしまった。
頭の中に外壁や床をスケルトンにした
このビルの断面図が浮かぶ。俯瞰図も浮かぶ。
真っ暗な立方体の中ポツンと小さく佇む自分のつむじが見える。
うーん。かなり全面的に独りぼっち状態だな。。。

しかも、ボロビルは時折
どこかのフロアで奇妙な軋み音を発する。

…怖い…か?

そのことに思い当たったら
だんだん体感温度以外の寒さも
濃厚な重みを持って上下前後左右から迫ってくる。

ピシッ

…。

ミシミシッ

…こりゃいかんな。

そこでまず
わずかでも暖をとるためにおもむろに自前の寝袋を装着。
そして
恐怖心を払拭するために一人で出来ることっていったら
…ねえ。やはり大声で歌うしかないわけよ。

大熱唱しましたとも。

もうなんでもかんでも思い付く限り歌いまくったさ。
なぜかNHKの「みんなのうた」系が多かったが。
歌詞が不明のところはもちろん作詞byオレ。

ところで、ワタシの寝袋っていうのが
あのいわゆる「みの虫タイプ」のやつね。色はグリーン。
首元までファスナーあげちゃうと手が出なくて
キーボードもマウスも操作出来ないの。
だけど上半身出しっ放しだと
手が尋常じゃないくらい震えて作業にならないの。

そこで20分おきぐらいにファスナーを引き上げて完全密封し
なおかつそのイモ虫の様なスタイルで屈伸したり
飛んだり跳ねたりして身体を動かし暖をとるのだ。

それもなるだけコミカルな動きを自分に強いて
「ちょっと楽しい」感を捏造演出。
こころに余計な恐怖が入り込む隙間を作らないよう
自己暗示にも必死なわけだ。
むろんその間も大熱唱ですよ。
「ハッスルばーさん」とか「○△□」とか…
ビブラートもかけるっちゅうの。

ん もう みの虫サンバですよ。
狂乱とはこのことか?ですよ。

20分黙々仕事、5分狂乱、20分仕事、5分狂乱を繰り返す。
効率悪いったらありゃしない。。。

で。

…そんな何度目かの狂乱のさなか、
ふと窓の方を見やると。。。

隣のビル。。。さっきまで真っ暗だったのに。。。

営業外回りから帰社したのか
すぐ隣のビルの明りのついたオフィスの中から
呆然とこちらを見つめるサラリーマン達の姿が。。。

!!!!!!!!!!!

そして目前の窓に映るは巨大なイモ虫と化した己の姿。。。
…飛び跳ね過ぎて肩で息してるし。。。





…はぁぁぁぁあ。

…も。。。イヤ。。。   

Side white
ため息をついたら、息が白かった。しみじみやるせない夜だった。
つーか恐怖の対象はむしろワタシだ。

by omifish | 2006-01-24 19:09 | white>black
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