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翔 ぶ 魚

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撒く男

少し前の3月のある日、
狭いコーヒーショップにて
ワタシはダバダ〜とくつろいでいた。

平日の昼の時間帯、そのコーヒーショップは
一人客のおじさん率が非常に高い。
サラリーマン風、散歩の途中らしき老紳士、
自由業っぽい職業年齢不詳のパソコン男性など。
女子供がいない店内は静かだ。

皆一様に等間隔に距離を置き、
つかの間のひと時をまどろむ草食動物のように
穏やかな遠い目をしている。
水牛のまなざし。

ふと、右隣にいた男性が立ち上がる気配があった。
年齢不詳のパソコン男子だ。
なにぶんテーブルの間隔も狭い店内なので、
出入りの際には人とテーブルの接触に気をつかう。
さりげなく隣人の動向を気にしていたのだが、
立ち上がったその人はそのまま微動だにしない。

不自然な間が続いたので、
ん?と訝しく思いそっと隣の様子をうかがうと、
隣人は無表情に
目の前の卓上の砂糖壺を手に取った。
蓋を外して脇に置く。
一連の行動は立ったまま。
銀のさじで壺の中の白い粉砂糖をすくい、
そして、

撒いた!

最初の一、二投は手前の卓上にぱぱっと、
己のパソコンのキーボードにかかるのもおかまい無し。
それで興が乗ったのか、
んもう後は立て続けに、景気よくぱあっぱあっと
店中にすくっては撒き、すくっては撒き。
お相撲さんの土俵入りもかくやという威勢の良さ。
いっそ気持ちがいいほどの豪快さんである。
見上げるワタシの顔にも当然降り掛かる。

しばし呆然。

何事かよと思うでしょ?
しかしだ、
そこはおじさま率の高い店内、
そんなことで騒然となったりはしないのだよ。
余裕。まあ、皆さん余裕。
それぞれ肩などに降り掛かった砂糖を片手でさっと払い、
何も無かったかのように
悠然と新聞などに目を落としている。
まさにハエを尾で払う水牛の貫禄。
…えええ。
気がつくと撒きまくっていた当の本人も
いつのまにか着席して、
ずずーっと冷めたコーヒーをすすっている。
…なぬー。


なので、ワタシも気を取り直して泰然と読書を続けてやった。
続けながら、しかし思った。

ああ、そうか、春か。
vol.45
vol.86


帰り道、ふとした拍子にぱらりと
髪の毛から砂糖がこぼれ落ちてくるのには
ちょっと閉口した。





by omifish | 2011-03-28 13:16 | white>black

花の落ちる音

深夜、居間で本を読んでいると
カサリと音をたてて
ハイビスカスの花が落ちた。

ハイビスカスの花は、咲き終わると
花弁を散らすのではなく、閉じて花ごと落ちる。
大きな花なので存在感も質量もそれなりだ。
静まり返った部屋の中で、
その音は存外に大きく響き、こちらはどきっとなる。

我が家のハイビスカスはかなりの大株だ。
狭い室内に置くと大人一人以上に場所をとる。
しかし、南国の植物を寒風にさらすわけにもいかず、
冬の間は居間に入れておく。
もちろん、本来の花の盛りは夏なのだが
暖房の効いた室内においては、一輪、また一輪と
冬の間も細々と花をつけ続ける。

蜜を吸いに来る虫も来ない、季節外れの室内で咲く花は、
なんともいじましく、その派手な容貌がかえって切ない。

落ちた花は手のひらにのせると
しわっと柔らかく、しっとりとしている。
まだ少し体温が残っているような錯覚を起す。
赤い小鳥の亡がらのようだ、といつも思う。
そして、いつもそう思ってしまう事に少し戸惑う。
両手で包んだまま、
なかなかゴミ箱に捨てられないのだ。




by omifish | 2011-03-22 03:10 | white>black