勤め先の本屋にて。
会計のやりとりが滞り無く終わって、
「ありがとうございました。」と一礼。
面を上げたら、当の客がまだ目前にいなさる。
客:受け取ったおつりを見ている。
わ:?
客:「おつり、200円じゃないの?」
わ:「はい、200円です(今お渡しいたしましたが?)」
客:「100円しかないけど。」
客:百円玉を1枚指でつまんで見せる。
びっくり。
わたしは、自分のセンス(パッと見で把握する能力や、触覚)を
まるで信用していないので、釣り銭には細心の注意を払う。
しかも百円玉五十円玉十円玉五円玉一円玉と各種入り乱れる
小銭オンパレードな釣り銭ならいざ知らず、
今回は二百円である。
同じ硬貨2枚よ。2枚。
たった今己の手のひらで確認した、
たった2枚の硬貨の何を見間違うというのか。
いやいや、そんなはずは無い。
…と、思う。
しかし、とっさに言葉が出ない。
なぜ、言い切れぬのか。
この日私は38℃近く熱があったのだ。
一瞬の躊躇が無言となって二人の間に沈黙が降りた。
次の瞬間だ。
客:「あ、あった。」
ぬらりと(それは本当に一瞬でよく分からなかった)
その客が指を動かすと、硬貨が2枚になっていた。
!?
一体どこから?
いや、確かにわたしが渡したのだが。
じゃ、どこに隠れて(隠して)いたのか。
驚きのあまり無反応に見つめるわたし。
ごめんね。うふと微笑んで客は去っていった。
……。
今のは……
イリュージョン?