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翔 ぶ 魚

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vol.14 サバンナに…略 長過ぎてまだ前編

さて、とろくて不器用なくせに衝動的だったワタシは
大雑把で無頓着であるゆえに望んでもないのに
一匹メスライオンとして窮地に立たされてしまった。

もとより多勢と闘う意志も勇気も無い。
というかそれ程危機を把握してなかった。

部落に近付くのは躊躇われたが
トイレは近くに無いと困りますのよ。
女子なんで。一応。

じゃあ、この辺ならいいかしらん?
という部落からは多少外れてるけど
夜中に必要を感じたら時間をとらずにトイレに行ける
というぎりぎりの妥協地点にテントを設営した。

実際には友人宅にお泊まりに行ったりもし
あるいは面白がった友人達がそれこそ
バーベキューやらキャンプのノリで
設営所に遊びに来てくれたりもしたので、
2ヶ月間毎日一人でテントに泊まっていたわけでは無い。

テントや生活用品はバイトや大学に行く時は
その都度面倒だが畳んで貸しロッカーに
しまって行くという防衛も計った。

それでも独りの夜はくる。

…こ、怖い。

夜中に突きに来るんである。
テントを。
しかし向こうも闖入者の女の得体が知れず恐いのか
一人じゃ来ない。2〜3人で来る。
それとテントを突きには来るが中に入ろうとはしない。

ワタシに興味があって危害を加えるのが目的というよりも
テリトリー侵略者に対する威嚇というか
出ていかせる為の嫌がらせって感じである。

しかし怒鳴ってる内容は支離滅裂で交渉のしようがない。
会話が成立しないという点では
相手はやはり野生動物か
はたまた言語を同じくしない他国の住民と同じである。

そんなある日一つしかない水場で一人の部落住人と出くわした。
こっちは内心またかと怯えてるものの
怯えを見せたら負けだと思ってるから虚勢を張るわけですよ。

野生動物に対する基本姿勢。
いきなり目を合わせないこと。
あからさまな関心を示さないこと。
しかもこちらには敵意が無いことを伝えなきゃならない。
服従する気はないから腹は見せられない。
尻尾も振れない。

まあ当然だ。ほんとの獅子じゃないんだから。

そこで相手も自分も人間だったと思い出して
軽く会釈してみた。
蛇口の使用を先にその人に目線で譲ったのだ。

「どうも」と言われたので
びっくりして思わず「いいえ」とかえした。
よく覚えて無いけどまあそんな感じ。
通常の会話が成立した。

激変した。
サバンナの掟が。
部落の掟が。

そう、群れをなすものたちには
統率をとる長が必然的に生じるのである。
部落では長が掟であり法である。
その部落にもまた例外なく長に当たる人がいた。

後に判明したのだがその長が水場で遭った彼であった。

そして彼がどうやら自分の部落の者達に
「あの娘にちょっかい出すことは今後まかりならん」
という箝口令をしいてくれたようなのだ。

それからは手のひらをかえしたように部落の態度が変わったのだ。
別にいきなり仲良しこよしにはならないが
まず、いやがらせの類いはぱったり無くなった
そして、バイト帰りの宵に部落の脇を通りかかると
やつらは稀に酒盛りをしていたりするのだが、
そこに招かれたことも何度かあった。

参加?しましたよ。

気分はすっかり
難航したフィールドワークの末に
ようやく心を開きあった現地人と新人調査員のそれである。

見てると酒は大抵は酒屋の裏のケースの壜の底に残っていた
酒を注ぎ足してミックスしたんじゃなかろうね?
というような得体の知れない混合酒だったが。
どっから調達してきたのか聞くのが憚られるような
高そうなワインもあった。

認めてもっらった上での通過儀礼だと
こころして息を殺して飲みましたさ。
(ついでに皆さん物凄い香りを発散してらっしゃるので
そのまま鼻呼吸は停止してました。。。)

結構みなさん普通です。
支離滅裂なあの怒声は
娘っ子を脅えさせるための演出だったの?って感じですよ。
いや、相変わらず意味不明な人も下品な人ももちろんいましたがね。

基本的には俺ってホントは結構馬鹿じゃ無いのよ
っていうアピール交じりの会話がなされ。
中には無口ながらこの人ホントはなんか凄いインテリなんじゃないの?
みたいな人もいました。その長とかね。

無口で眼光鋭くて右手の親指が潰れてて
でも車座の中で誰かがワタシにちょっかい出そうとすると
一喝してくれる頼もしいおっさんだった。

実際ワタシが一緒に飲んだのは2回だけだったし
梅雨入り前にはなんとかとあせっていたアパートの資金も
ようやく溜まり、割とさっさとそこを去った。

最後に長に一応挨拶に行ったとき
長は見当たらず別のおっさんに「また」と言ったら
「は?」「またじゃねえから」って言われたんだった。

その後も長が気になったが
小奇麗な格好(いや、当時に比べたらね)で行くのも
なんか逆に失礼なような。。気が引けて
そのままになっていた。

その高架の上を走る電車に乗る度になんとなく
下を眺めたりしたけども敢えてその駅で降りることも無く
だらだらと時は流れた。

はあ、疲れてきた。後編へ
by omifish | 2005-11-17 14:04 | white>black
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