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翔 ぶ 魚

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vol.87 謂われなき対決

Side white

ものすごく睨まれている。

こっそり冷たい視線を投げ掛けられる
なんてレベルではないのだ。
真っ正面からズバーンと直球で
それこそ「親の仇」みたいな目で射抜かれている。

どうしたものか。
なぜなら全く知らない人なのである。
ガラガラに空いた京急線の中である。
真っ正面に対峙するかたちで座ってる女子である。
目と目が合っても逸らすそぶりも無い。
…困った。
ワタシ、何かしましたか?
何処かで会ってますか?
しかし、その電車は滅多に利用しないのだ。
以前にも乗り合わせたなんていう可能性も低いしなー。
ワタシが座っていた車両に
後の駅から乗ってきた人なので
同じホームでうっかり足を踏んだとかも無いしなー。

人違いかなー。
ワタシが憎い誰かに似てるのかなー。とほほ。
と、思いつつも目線を逸らしたら負けじゃ。的なね。
野生の心理がはたらいて、
じーっと相手の目線をとらえたまま、
手元の文庫本を静かにパタリと閉じる。
…長期戦覚悟の構えである。

ただし
こちらには何の恨みも無いので睨み返すわけにもいかず。
かといって愛想笑いを投げかける雰囲気でもなく
無表情にじーーーーーっと見つめかえす。
敵対心はありませんと伝わればいいなと思いつつ
じーーーーーーーーー
何か?的な
疑問符がひたいに浮かんでればいいなと思いつつ
じーーーーーーーーー
ギリリVSじーーー

両者まんじりともせず。
ええぇ。
これって傍から見たらどんな感じなの?
因縁の二人って感じなの?
あきらかに何のつながりも無い赤の他人には
出せない空気感を出しちゃってますよね?ワタシ達…
不穏な空気を感じ取ったらしい、隣のカップルが
興味ありげに見ている気配が伝わってきますよ。


な、なんだこりゃ。
自分の置かれてる状況が可笑しくなってきてしまった。
頬が緩みそうになるのをぎゅっと内側から噛みしめて
我慢するワタシ。

いかんいかん。
相手は真剣そのもの、直球勝負で挑んでるんだ。
ここで吹き出しては不謹慎だろ。
相手に失礼だろ。と己を戒める。

謂れの無い恨みを買う気はさらさら無いので
相手の恨み心の真相そっちのけで
こちらはこちらで勝手に脳内イメージを発動させて、
架空の試合にしたてあげてみたのだ。

…よく分からないリングに上がってしまった。

邪心には無心。
阿修羅のごとき面相に対抗するは
菩薩のような諦観、無心の眼差しじゃ。
地蔵のような無表情な半眼を試みる。

…で?
これは…
えーと。
どういう展開で勝敗が決まるのだろうか。
何をしたら一本になるのか。
隣のカップルとか、向こうの方にいるおじさんが
いきなりジャッジとかしてくれるんだろうか。
誰か早く「両者引き分け!」とか言ってくれ。

相手の睨みは増々凄みがきいてくる。
…脳内対決は続く。


降車する時に、笑顔でひたいの汗をぬぐいながら
良い試合でしたね!
と対戦相手に手を差し伸べたい心理に駆られたが
彼女の気持ちを逆なでして刺されたらコワいので止めといた。

Side black
なんだったんだ。…なんだったの?
by omifish | 2007-02-26 16:42 | white>black
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