五月二十三日 蝶は意外と速く飛ぶ
歩いていたら、うしろから
紋白蝶に追い抜かされたのである。
ここで問題になるのは
ワタシののろさではない。
蝶は意外と速く飛ぶものなのだ。
結構なスピードでハタハタと抜かして行った。
そのことに既視感を覚えた。
以前にもよく似た経験をしたことがあるな。
と、記憶を探ってみたのだが
どうやらそれは、自身の経験ではなくて
書物で読んだ他人の経験であったようだ。
池澤夏樹氏あたりのエッセイだった気がするが
確認していないので定かではない。
こういったことは割と頻繁にある。
というのは、読んだものの記憶との混同。
これまでに読んできた書物はたくさんあるし
文章中の情景は脳内で映像化されて記憶するので、
自分が実際に、あるいは何かしらの媒体を介して
「見た」記憶なのか、
それとも文章を「読んで」映像化した記憶なのか、
すぐには、はっきりしない映像が
たくさん頭には詰まっているのだ。
話しの本筋とは関係無い何気ない風景描写の映像。
遠い国の町並みや、親しげな他人のいる光景。
現実には存在しない架空の国の稜線。
夥しい数の、実際には「知らない」鮮明な風景たち。
デジャビュの正体とは、
案外こういうことなのかもしれない。